再生医療

幹細胞治療が当院で受けられるようになりました

幹細胞治療のための犬脂肪組織由来幹細胞製品の発売開始

再生医療が身近になります。
犬脂肪組織由来幹細胞が商品として、DSファーマアニマルヘルス株式会社より発売になります。商品名「ステムキュア®」

これにより事実上どこの動物病院でも幹細胞治療を受けることが出来るようになります。
当院ではいち早く登録病院となり、既に治療を提供できる状況にあります。
では、そもそも再生医療(幹細胞治療)とはどの様な物なのでしょう。
再生医療とは文字通り失われた組織を再生する事により、身体の機能を取り戻すための医療です。
この医療の主役となるのが幹細胞と呼ばれる細胞で、これは色々な細胞に分化することが可能な細胞です。

この幹細胞にはいくつかのカテゴリーがあり、耳馴染みがあるものでは、iPS細胞、ES細胞が有名ですが、その他に体性幹細胞というものもあります。

・iPS細胞(人工多機能細胞):体細胞より作られる
・ES細胞(胚性幹細胞):動物発生初期段階の胚盤胞期の細胞塊より作られる
・体性幹細胞:もともと体内に存在し(間葉系細胞由来、骨髄、脂肪組織)、特定の組織や臓器で寿命を迎える細胞の代わりを造る

再生医療という分野はヒトでも先端医療として注目されていますが、意外にも動物医療の分野においてもここ10年ほどで既に臨床応用されており、治療が提供されています。
動物医療の分野で提供されているのが体性幹細胞、中でも脂肪組織由来間葉系幹細胞となります。
iPS細胞、ES細胞と間葉系幹細胞は同じ幹細胞の分類も性質が異なります。
簡単に言うと、前者が全ての組織、細胞に自ら分化して行くことが出来る細胞で、後者の間葉系幹細胞は分化できる組織、細胞が限局的となります。つまり何にでも成れるわけではないということです。現状ではどのタイミングでどの組織、細胞に分化できるかのデータを蓄積している段階で、角膜炎、肝障害、神経疾患 その他免疫疾患に応用されています。 
その中でも最も利用が進んでいる疾患の一つが椎間板ヘルニアの治療です。
この疾患に関しては、外科的および内科的治療で改善するケースが多いですが、改善が認められなかった症例のうち3割くらいのケースが幹細胞治療により改善が認められ、中には歩行が可能となった例も報告されています。


とても希望の持てる治療法で、多くの患者様に適応出来ると良いのですが、いくつかのハードルが存在します。
そもそも動物医療の分野ではどの様な形で幹細胞治療が提供されているのでしょう。
簡単な治療の流れを説明します。

脂肪細胞由来間葉系幹細胞という名前の通りこの幹細胞は脂肪組織から分離、培養されます。
健康な動物から採取した脂肪組織(必ずしも治療を受ける個体である必要はありません)をもとに細胞を育てるための培養液内で約3週間培養を行い、増殖させます。その細胞を血管から複数回にわたり点滴投与という流れになります。
このように文章で表現するととても簡単なのですが、実際にはとても大変な作業になります。

まず、細胞を培養するために無菌状態で作業を行うためのクリーンベンチという設備が必要になります。
培養には3週間ほどの日数がかかり、得られる細胞の数が一定の数にならないという問題も有ります。(脂肪組織供給の動物、施設設備、作業にあたる従事者の技術などによるバラツキ)
そのほか保存の問題(−80℃での凍結保存が可能な設備)などが有ります。
そのため、現在この治療を提供している病院は限られた数になっており、望んでも全ての方が受けられるものでは有りませんでした。

今回発売されたステムキュア®は既に培養増殖された幹細胞が一定量均一に瓶詰め(バイアルに入って供給)されており、各々施設で脂肪組織から培養を行う必要が無くなりました。つまり培養のための設備が不要で、どの病院でも治療を受けられることになります。

ただ治療のハードルが下がったとは言えにはいくつかの条件があります。
商品の輸送は−80℃での凍結輸送が必要なこと、解凍後は72時間以内に使用することなどが上げられます。しっかりと治療計画を立てることが重要になります。
もう一つ大きな問題があります。
病院内で培養された幹細胞にせよ、製品となっている幹細胞を使う場合にせよ、その治療に必要な費用は数十万円とかなり高額なものになります。
獣医師との十分な協議、検討が必要です。
とは言えとても画期的な治療法であることは間違い有りません。
詳しくはどうぞご相談ください。

2021年12月11日 北海道で一例目となるステムキュアによる幹細胞治療を当院で実施しました。
CASE 2006年12月生まれ 15歳 ミニチュアダックス 椎間板ヘルニアによる後駆麻痺